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京都紀行 俵屋旅館編
写真だけアップしてそのまま放置しており失礼しました。

俵屋旅館は書き始めるとこれまた桂離宮よりも長くなりそうなので、ほんのさわりだけにしたいと思います。

俵屋についての情報は長年にわたって少しずつ仕入れていたのですが、やはり実際に泊まってみなければ、本当のよさはわからないものだなあとつくづく思いました。

俵屋のこだわりというか、居住性というか、美意識は、いわゆる一般的に「高級老舗旅館」と呼ばれるもののそれとは全く別ものであるように感じます。伝統的でありながら、ただ単にそれを固守するのとはまったく違う革新性がそこここに見られ、300年以上続いている宿とは思えないホスピタリティと、あくまで控えめな中に、究極のこだわりをもって一つ一つに心と技を砕いているその姿勢がかいま見え、本当に心地よい、そして私にとってはわくわくするような時間を過ごすことができました。



中京区麩屋町通りにある俵屋の入口。この通りの向かい側には京都三大旅館の一つ「柊屋」があります。残りのもう一つ、「炭屋旅館」もすぐ近く。



通りから一歩引き込んだその右奥には再び吹抜けの空間が。決して広い空間ではないし、それどころかロビーもなければ大旅館のような玄関すらないのに、すでにここはもう別次元。



ここの沓脱ぎ(くつぬぎ)には江戸時代からの風情が残っている。ここを上がって建物の奥深くへと導かれる感覚が何とも言えない。



玄関前に飾ってある屏風や装飾は3月のもの。俵屋では毎月すべての客室と館内の美術品を入れ替える。



通りから最初の引込みのところには芍薬(それとも牡丹?)



玄関を上がって中央の吹き抜けの坪庭には、見事な桜が。入口の引込みのところもそうでしたが、建物内部の薄暗がりから光射す坪庭へ「暗から明へ」と導く仕掛けが絶妙。



今回泊まった部屋は旧館にある「霞(かすみ)」の間。建築家中村好文さんもお薦めということでしたので、電話での予約時にリクエストしてみたところ、最初はふさがっていたのを特にこの部屋のご指定ではないからとわざわざ変更してくれました。部屋に入るとガラス窓の向こうの青竹の緑にまず目を奪われます。



踏込みの次の間にある木製天板がL字になって右奥の8畳までのびています。そのL字部分がガラスの開口部となってこの霞の間に解放感をもたらしています。

奥の8畳では、正方形の床の上に小さな壺、正面の花器には椿が何気ない感じにさしてありました。その横には桜の軸。一つ一つが決して主張しすぎない中に品格がある。俵屋のすべてがそんな感じです。ちなみにこの部屋のしつらいについて、ちゃんと美術品の名と作者を書いた資料が置いてあったのですが、実測にうつつをぬかしすぎてチェックするのを忘れてしまいました。



この書斎机のようなカウンターの下は、掘りごたつ式になっていて、床暖房がいれてありました(カーペット敷き)。座椅子は別名「ベンツ座椅子」と呼ばれる俵屋オリジナルのもの。もちろん座り心地も満点。



坪庭を見おろすとこんなかんじ。




4畳の次の間と8畳の本間を仕切るのは屋久杉の一枚板。天井高は約2100。この屋久杉の開口高も窓の上端も1700を切っていますが、圧迫感はなく、このミニマムさ、視線の低さが逆に落ち着ける空間をつくっているのだと思います。中村好文氏は「繭玉のようなぬくぬくとした居心地のよさ」と言っておられますが、本当にそんな感じがする居住性でした。




ガラスの内側に雪見障子が隠れています。下に1段残っているのは、ここからの景色を一番きれいに切り取れるようにという女将の判断らしい。ここの女将は他の旅館のように客の前には姿を現しません。しかしこの俵屋のしつらえ、建築普請、庭つくり、オリジナルの家具や照明、布団その他アメニティ等に至るすべてを、第11代当主である佐藤年さんという女将が取り仕切っており、彼女のディレクションで現在の俵屋が成り立っていることは村松友視著「俵屋の不思議」に詳しい。



そして雪見障子の奥にはカーテンが。ここの新館を設計した吉村順三氏は「日本家屋にはカーテンはそぐわない」とおっしゃっていて、カーテンもちゃんと隠せる仕掛けになっています。



とにかく繊細で緻密な納まりに写真を撮りまくり、実測もしまくりました。建築家宮脇檀氏が俵屋のことを「疲れる旅館である」と評したのは、「実測がやめられない」「眠るのがもったいない」から。




次の間の天井には京唐紙が張ってありました。




浴槽は檜ではなく高野槇。高野槇という材は水気や湯気に強く、香りも良く、風呂桶の素材としては最上らしい。そして湯水が冷めにくいようにも感じた。こうして写真で見ると広く見えますが、実際はこじんまりしていて、0.75坪くらいでしょうか。浴槽のサイズ(≒L1200×W600×H610)が何ともちょうど良く、温泉ではないけどつい長湯してしまいました。



本間の壁にあるこれは何だろうと思ったら




テレビが隠れていました。テレビを前に引き出せるようになっています。




お着きの菓子は、知る人ぞ知る俵屋オリジナルのわらびもち。その味は噂に違わず、何とも言えない口当たりと柔らかさが極上の逸品でした。



夕食のおしながき。弥生の献立です。
ひと品ずつ出てくる懐石料理はどのくらい時間がかかるのか尋ねてみると「1時間半程かかります」と仲居さんがおっしゃったので、そんなにかかるのと思いましたが、食べ終わってふと気付くとちょうど1時間半経っていました。料理はどれもびっくりするような派手さはないが、一品一品丁寧に料理され、盛り付けられたいい料理だったと思います。器もすばらしかった。日本旅館について書かれた本に「俵屋の魅力はボディブローのように後から効いてくるところだ」とありましたが、本当にすべてがそんな風で、控えめだけど実は凄いみたいな、それが俵屋です。



朝食の湯豆腐にはこれも俵屋オリジナルである湯豆腐桶が登場。手前の穴の中には炭が入っていて豆腐とつけだれを温めている。




ロビーはない俵屋ですが、客室のほかに宿泊客が利用できる部屋がいくつかあります。ここは女将の夫で写真家であり、大学教授であった故アーネスト・サトウ氏の書斎を再現してあるメモリアルルームで、「アーネストスタディ」と呼ばれています。午後5時より11時まで、宿泊客はここでコーヒーを入れて飲んだり、インターネットをしたりすることができます。そこには何とウェグナーのベアチェアが置いてあってびっくり。そして老舗旅館の中にこんな部屋が、しかも全然違和感なく存在していることにもびっくり。窓の向こうの緑は屋根の上に施されているという。



アーネストスタディの奥には、1段下がった5角形のこんなスペースも。ここが本当に落ち着ける、巣ごもり感覚の居心地のよさで、何時間でも過ごせそうでした。



桜が見事な坪庭の奥のラウンジ。ラウンジと言っても本当に小さなスペースです。何度も言いますが、その小ささが落ち着きと居心地の良さを与えているのです。奥はライブラリーですが、その入口は「にじり口」のよう。



ラウンジの右側には年代物のお雛様。



ライブラリー内部。これこそ中村氏の言う繭玉の内部。




旧館から新館のほうへ行く廊下の横に「庭座」と呼ばれるスペースがあります。庭を眺めながらくつろげるこの場所は、ちょうどエアポケットに落ち込むように寄り道したくなる心憎い趣向であると「意中の建築」の中で中村氏は述べています。




廊下の一角にある俵屋グッズのショップ。食事の際に使われている陶磁器類からスリッパ、寝巻、アメニティなど俵屋ワールド一色。



数あるオリジナルグッズの中でも特に家内が絶賛していたのが、石鹸。これも女将である佐藤年さんが、20年前に俵屋らしい香りや形をした石鹸をつくりたいと花王(株)と共同でつくったものだそうで、実際に買って帰った石鹸の箱の中には、「..ベルガモット、ローズ、サンダルウッド、ジャスミン、パチュリー、ラベンダー、ラブダナブなどの天然香料に、ムスクなどの香り、二百余種類をブレンドして完成したもので、このように天然香料をふんだんに使った石鹸は日本では唯一のものであり、花王(株)にとっても特別の製品でございます」と書いてあった。確かに洋風でも和風でもない何とも言えないよい香りで、私は気付きませんでしたが、その香りが寝具や食事の際に出るおしぼりにもつけてあったらしい。使用感もしっとりとして、風呂上がりなど残り香がほんのりと香って気持ちいい。

「俵屋の不思議」によれば、金色の紙で丁寧に包装され、和紙の箱に鎮座するこの石鹸をお土産にもらった人が、お菓子と間違えてお茶受けに出してしまったことがあるという。なるほどそれで、箱に入っていた紙にひと際大きく「本品は食品ではありません」と書いてあったのだ。


俵屋旅館を単なる古い町屋の旅館だと思ったら大間違いです。世界の文化人たちがその宿帳に名を連ねる理由は、数寄屋という日本固有の建築文化を残しながらも、現代のホテルのホスピタリティを兼ね備え、新しい創意を加え続けていることにあると思います。帰り際に若い仲居さんが「常にどの部屋かが改装されている状態ですので」と言っておられた通り、常に新陳代謝を繰り返しているところに俵屋のすごさがあるのです。


ほんのさわりだけと言いながら、結局長くなってしまいました。本当はこれでもまだ半分も書き足りてはいませんが、この辺で終わりにしておきます。


俵屋では、旅館のすぐ近くに、グッズを購入できる「ギャラリー遊形」というショップと、その隣で、これまた素晴らしいたくさんの北欧家具(フィン・ユールのものなど私的には垂涎ものばかり)に囲まれてゆっくりとくつろげるサロン・ド・テというカフェを営んでおられます。もちろん佐藤年さんプロデュースなので、小さなところまで俵屋ワールドが行きとどいています。このサロン・ド・テではあの「わらびもち」も食べることができるんですよ。そのご紹介もまたあらためて行いたいと思っていますので、またまたお楽しみに。
| デザイン紀行 | 18:03 | comments(0) | trackbacks(0)
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