まずは「李禹煥美術館」前でシャトルバスを下車。
直島は、「ベネッセハウス」もこの「李禹煥美術館」も「地中美術館」もすべて安藤忠雄氏設計の建物です。海と空の青、山の緑、そしてその中でコンクリート打ち放しのグレーが少し遠慮がちな感じで(高くそびえるのではなく、埋没するイメージで)、あちこちに存在している風景というのは、直島ならではという気がします(あくまでベネッセハウス周辺の風景で、港周辺は違いますが)。
李禹煥美術館/建築:安藤忠雄 アート:李禹煥(リ・ウファン)
谷あいから海へとつながる地形をいかした建物は、外部空間と地下に造られた内部空間とをゆるやかにつなぎ、「つくる」ことをぎりぎりまで抑え、最小限の要素で構成された李の作品と深く結びついた空間となっている(ガイドブックより)
柱の広場
奥のコンクリート柱と鉄板と自然石の作品が「関係項ー点線面」
手前の鉄板と自然石の作品が「関係項ー対話」
「関係項ー休息または巨人の杖」
なだらかな芝生の向こうに海が見えます
安藤氏お決まりのコンクリート壁に囲まれたアプローチを進むと、入口前に行列が。
またか?と豊島美術館の悪夢が蘇る。
1番人気の地中美術館は混雑が予想されるということで、ベネッセハウス宿泊者は事前に整理券を発行してもらえたので、安心してこちらを先に見に来たのだが、11:00の地中美術館入館時間に間に合うだろうかと一瞬不安がよぎる。
でも結局15分ほど並んで無事に入館できました。
「関係項ーしるし」
照応の広場 「関係項ー合図」
建物内部には、それぞれ「出会いの間」「沈黙の間」「影の間」「瞑想の間」があります。
日本画や映像をからめた作品もありましたが、「もの派」と呼ばれた日本の現代美術運動の中心的作家らしく、自分が支配的になるのではなく自ら作ることができない自然物や産業用品を作品に取り入れて、それらを結びつけていくという作風に、安藤さんの建築も呼応しようとしているように、感じられました。
地中美術館のチケットセンター
11:00の入館時間の15分ほど前にシャトルバスで到着。このとき、すでに整理券をゲットしようとたくさんの行列ができていましたが、その時配られていたのが14:30頃の整理券でした。今回はベネッセハウスに泊まったので前日には整理券を手に入れることができましたが、そうでなかったら、とにかく朝一番にここに来て、整理券に並ばなくてはならなかったでしょう。※豊島美術館と同様、公式サイトでwebチケットを購入することができます(混雑期)
チケットセンターで入場券をもらったら、そこから2〜3分、坂道を登ったところの美術館まで歩きます。その小道が、やけに植え込みなどがきれいに整備されているなと思っていたら、睡蓮の池が現われてびっくり。美術館に恒久設置されているモネへのオマージュですね。
酷暑の中でしたが、思わずもらった清涼感に期待も膨らみます。
地中美術館/建築:安藤忠雄 アート:クロード・モネ、ジェームズ・タレル、ウォルター・デ・マリア
入り口にスタッフが立っていて、「写真撮影はここまでです」と念を押されつつ中へ。
その名があらわすように、建物の大半が地中に埋まっているので、外観のない建物というのは写真に撮れないのが難点ですね(パンフレットのものは航空写真でした)。
それにしても、どの作品もすばらしかった。
印象派を代表する画家、クロード・モネの大作「睡蓮」は別格としても(この作品の購入をきっかけに地中美術館は構想されたということです)、モネの「睡蓮」を今の視点から解釈するために、現代美術家のウォルター・デ・マリアとジェームズ・タレルが選ばれたということからも、この二人の作品のスケールの大きさがわかります。
モネ室について
「睡蓮」の大作が5枚も展示してあるモネ室ですが、絵の鑑賞もさることながら、その空間自体がモネの絵を鑑賞するために、細部にわたってこだわり抜いてあることに驚かされます。それはモネが最晩年に構想した「大装飾画」の建築プランを下敷きにして、それを再現するように設計されているとのこと。
角が丸くなった壁、自然光の間接照明、そして白の背景を好んだモネに倣って、額縁、床には白い大理石、壁には目の粗い砂漆喰が用いられている。床の大理石は、イタリア、カラーラ産のビアンコカラーラで、ミケランジェロが使った大理石と同じ採石場から採られたものだという。それを2cm四方の立方体に切り分け、約70万個を床に埋め込んであります(入室の際に、スリッパに履き替える)
また、額縁は白さに定評があるギリシャのタソスホワイトという種類の大理石。
壁の漆喰は、高松城の外壁に使われているものと同様の目の粗い砂漆喰を、30人の職人がまる一日をかけていっせいに仕上げたそうです。
10年程前に、フランスのオランジュリー美術館でもモネの「睡蓮」を見ましたが、空間そのものに「睡蓮」と連動した感動があるのは断然こっちですね。逆に気になって絵に集中できないところもありますが。この睡蓮を鑑賞するのに最もふさわしい空間で、本当は1時間くらいじっくり鑑賞したかったです。
ウォルター・デ・マリアもジェームズ・タレルも、単に現代の奇抜な美術ではなく、自然と向き合い、そこから得たアイデアを作品にしており、西洋美術の流れの中に位置づけられているアーティストなのだそうです。
ウォルター・デ・マリアの作品が展示してある空間は、部屋のサイズ・高さ・採光など空間全体を作品と考える彼女の指示によって決められており、天井からの自然光のみで鑑賞します。奥行き24m、幅10mの大空間の長辺と東西の方向が一致しており、入り口方向から昇った太陽が奥の壁方向に沈んでいくことで、時間帯によって部屋の採光状況が劇的に変化。階段状になった部屋の真ん中にある花崗岩の球体と、コンクリートの壁際に配置された金箔張りの木彫だけではない、空間全体を一つの作品として、皆さん鑑賞されていたと思います。
朝散歩したときに見た「見えて/見えず 知って/知れず」も彼女の作品。これは長辺が南北方向に設置されています。
光の芸術家と呼ばれるジェームズ・タレルの作品は、後で行く「南寺」でも見ることができますが、ここには彼の3つの作品が展示されていて、その作品のシリーズが誕生した順に見ることをおすすめします。光を対象として視覚的に扱っていた作品から、光の中へ入っていく仕組みに作品が移行しているのがわかるので。特に「オープン・フィールド」という作品は、体験してみないとわからない奥深さと感動があります。視覚だけではなく、五感すべてを使って体験するアート作品は、詳しく説明すると長くなるので割愛しますが、間違いなく面白いので、興味のある方はぜひ現地で体験してください。
同じく「オープン・スカイ」も体験型の作品ですが、暑い夏の、それも昼間ではなく、寒い季節の夕方の方がおすすめかも。というのもこちらは閉館後、日没にかけてのナイトプログラムというのがあっていて、しかも冬場はベンチに暖房が仕掛けてるらしいのです(どなたかのブログに書いてありました)。
この日は日本人だけでなく、台湾からの団体客もたくさん来ていて、館内にある「地中カフェ」も一杯でした。それにしても台湾の人って、どうしてあんなにおしゃべりなんでしょうね。台湾人のガイドさんも、何をそんなに説明することがあるのかというくらい、ずーっと凄い剣幕で?話し続けていましたが、「ここは美術館ですよ(しかも瞑想室)」「少し黙って鑑賞しましょうよ」って言いたくなるくらい、みなさんツバを飛ばしながら口々にずーっとしゃべり続けておられました。
でも地中にありながら、美しい瀬戸内の海を一望できるこのカフェに寄らずに帰ったのは今となってはちょっと心残り。ワインも飲めたと聞けばなおさらです。
次回は、もう少し少ない時期を選んでまたリベンジしたいと思います。
睡蓮の池のほとりを歩いて戻りながら、一旦山を削ってこのコンクリートの建物を建てたあとに再び埋め戻すなんていうことをしてしまう、モネの「睡蓮」を5つも持ってる、ホテルの中にも美術館をつくっちゃう、李禹煥美術館や豊島美術館も運営している......ベネッセって........そういえば、しまじろうのこどもチャレンジをうちの子たちもやってたっけな、なんてふと考えた。自然との共生は、つくられた自然との共生なのか、ありのままでは自然も生き残ってはいけないのか.....たくさん見たアートのせいかもしれませんが、そんなこともふと頭をよぎったりしました。しかし、建築も芸術も、ある意味パトロネージュの存在なくしては存在しえない部分があるのも事実。その志はあくまでも尊いものだと思います。
というわけで、美術館2つを堪能したあとは、島の東側にある本村(ほんむら)港の家プロジェクトを廻ります。
シャトルバスで一旦荷物を取りにパーク棟に戻り、それから本村港まで再びシャトルバス。
バス停近くの「本村ラウンジ&アーカイブ」という家プロジェクトの案内所みたいなところに荷物を預け、歩いて廻ります。
ANDO MUSEUM(安藤忠雄)
約25年前から直島と関わり、数多くの美術施設を設計してきた安藤忠雄氏の、古い町並みの残る本村地区に今年できたミュージアム。外観は古い民家の姿を残していますが、中に入ってびっくり。地中美術館方式といったらわかり易いでしょうか、コンクリートの建物が古民家の中に埋め込んであるという、しかも壁が斜めになっていたり、トップライトからの自然光だったり、スリットからもれる光だったり、安藤建築の真骨頂。展示されている写真や模型も含め、安藤ワールド満載の空間でした。
南寺/バックサイド・オブ・ザ・ムーン(建築:安藤忠雄 アート:ジェームズ・タレル)
内部はさっき地中美術館でも見た、ジェームズ・タレル氏の「体験型」の作品です。
かつて寺だった場所に、タレル氏の作品に合わせて、安藤忠雄が建物を設計。
整理券を持たずに見に来た女の子が「どうして見れないんですか」と係りの人に食って掛かっていたのを目撃しましたが(
まるで豊島美術館での私を見るよう)、実はここもベネッセハウスで整理券を事前入手できたので、事無きを得ました。宿泊費が高い分、シャトルバスやこういった利用者の利便性に気を配ってもらえるのは非常に助かりますが、この南寺は、特に入場制限なしに人を入れるわけにはいきません。なぜならバックサイド・オブ・ザ・ムーンという作品は、本当に1寸先も見えないくらい真っ暗闇の空間を壁伝いに進まなくてはならないからです。もう完全な暗黒の世界で、自分の体すらまったく見えない。
でもそれが中に入って10分ほども経つと、だんだん目が慣れてきて、そこにぼうっと光が浮かんでくる。そして歩き回ることもできるようになり、周りの人たちの存在も見えるようになる。あんなに真っ暗だったのに...という不思議な感覚。暗闇の中では自分自身の存在さえ見失いそうになっていたものが、だんだん見えてくることによって蘇える感覚。うーん、これも体験しないとわかりませんので、ぜひ直島へ。
角屋/Sea of Time'98ほか(アート:宮島達男)
200年ほど前の家屋を改修した家プロジェクトの第1弾。内部にはなんと土間をあがった部屋の床に水が張ってあり、125個のLEDデジタルカウンターが明滅していました。
石橋/ザ・フォールズ/空の庭(千住博)
築約100年の民家の母屋と蔵を改修。千住氏の長年のモチーフである滝を描いた大作「ザ・フォール」と14面の襖絵「空の庭」が展示されている。写真は「石橋」
護王神社/アプロプリエイトプロポーション(杉本博司)
江戸時代から祀られてきた神社を杉本博司氏が自ら設計して改築。地下の石室はガラスの階段で本殿と結ばれ、地上の光が入り込む。
この日は地下の石室の見学に行列ができていました。結構並んで、4人ずつ中へ。
ガラスの階段の下まで、かなり狭い通路を進みます。
石室の反対側に見える海。
石室から出るとき、四角い開口の向こうに青い海が見えるというのを以前テレビで見たことがあったのですが、ベネッセのサイトにありました。
ベネッセアートサイト直島より
はいしゃ/舌上夢/ボッコン覗(大竹伸朗)
かつて歯科医院兼住居だった建物を大竹伸朗がまるごと作品化。屋内外に多様なオブジェや廃材、看板、ネオン管などがコラージュされ、混沌とした空間をつくり出している(ガイドブックより)
宮浦港エリアにあった「I♡湯」の大竹さんです。
船底が張り付いた外壁
廃業したパチンコ屋からやってきたという自由の女神
ボッコン覗(のぞき)というのはこの窓のこと?
タイトルの「舌上夢」という言葉は、何かを口にしている時、味や匂いなどの感覚からたどる夢の記憶のプロセスを表現しているそうです。
玄関
内部の撮影は厳禁だったのが残念。
カオスと混沌の中に、何とも言えない温かさというか、懐かしさのようなものを感じ、少なくとも決して不快ではなかったと記憶します。
その他、三分一博志さんの「風と水のコックピット」という夏会期だけの構想展もあっていて、エナジースケープという発想が興味深かったです。
例のごとく、この日もお昼を食べそこねていたので、シャトルバスで宮浦港へ戻る前に、通りがかったお店で、ハマチのフライをはさんだ「直島バーガー」を買って食べました。揚げたてのハマチのフライはジューシーで、めっちゃ美味しかった。
宮浦港に着いたらフェリーの時間が迫っていて、結局「I♡湯」に入ることはできませんでした。
いろいろとリベンジもしないといけないし、またいつか違う季節にやって来ようと誓って、フェリーに乗り込み、本州への帰途につきました。
宇野港周辺は、写真の街ということで、「街中写真プロジェクト」という展示があちこちで行われていました。宇野港の正面では、アラーキー(荒木経惟)の写真がでかでかと出迎えてくれています。岡山駅行きのバスを待つ間、アラーキーとデビッド・シルビアン(彼が写真家になっていたとはつゆ知らず)の写真展などを少し見て廻り、3泊4日の旅をしめくくりました。
毎日、暑い中2万歩近く歩きまくった旅でしたが、思った以上に見どころの多い、楽しい旅でした。神戸は他にも見たいところがあったし(異人館とかではなく、港の方)、特に豊島は時間が足りなくて見れなかったところがたくさんありました。男木島や女木島、小豆島など、ほかにも行きたい島がまだまだあります。いつかまた訪れる日まで。
長々と、神戸・瀬戸内の旅にお付き合いくださいまして、ありがとうございました。
追伸:宇野港のインフォメーションセンターで飲んだオリーブサイダー、ほんのりとオリーブが香って、なかなか美味しかったです。